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朔夜は言い難そうに女性を見つめると、言葉詰まる喉に息を吐いてから頭を掻いた。普段ならば何か質問をする事に躊躇う事などありはしないのだが、今回はそれとは違う気がしたのだ。
「あらあら、可笑しな人。今時の高校生にもこう変わった子が居るのね。でもごめんなさい、私も準備があるからそんなに暇じゃないの。――何かあるのなら、また此処へいらした時におっしゃって頂戴?」
その時は答えてさしあげるから、そう言い終わると、彼女は颯爽と店内へ戻って行った。ドアが閉まる寸前、逆光で反射した太陽の光が瞳を過ぎり思わず目を瞬く。
朔夜が暫くそのまま呆然としていると、現代なら有り得ない現象との出会いに眉を潜める。
女性が現れた時の事を鮮明に思い出しながら、一本足を踏み出した。
「瞬間移動って……、どんだけ羨ましい才能の持ち主なんだよ…」
恵まれた能力を持つ人間も居たのか、と無知過ぎた今までの自分に、彼は深い溜め息を吐いた。
空は快晴。青々としたその中には、所々散りばめられた長い雲が広がっている。
晴れない疑問で埋まった胸中を掻き消すべく、朔夜は済んだ朝の空気を思い切り吸い込んだ。
「……っ、ちょ、と…!」
家から飛び出した後そのまま延々と走り続け、やっと目指していた人物へ追い付いた事に内心安堵しながら、彼女は息を吸い込む暇も無く向こうの人物を引き止めた。
それに振り向いた彼は、その荒く息継ぎを繰り返す前の人物を見ると、冷静な顔色でそのまま訝しげに彼女を見つめた。
走って来た所為なのか肩は上下に動き、ボブカットの髪は風で忙わしなく揺らめいている。
「な、何で待っててくれなかったの? 来たら誰も居ないし、普通に困ったんだけど…」
「…何でって、普通に考えて時間守らない奴が悪いから。勇慧」
彼のその言葉を聞くと、勇慧は些か眉を寄せ納得いかなげに朔夜を睨んだ。
一方的過ぎる相手のリアクション。特に臆する事もなく、朔夜は遅刻気味の時間を確認してから今度は早足で学校を目指した。
無反応の相手に、勇慧は更にまくし立てる。
「…だって、しょうがないじゃない。可笑しかったんだから」
「へぇ…、朝からお笑い番組見るとは。随分余裕じゃん」
「ちょっとちょっと。意味が違うよ! …朝起きたら目覚まし時計は故障してるし、占いは最下位だったし、だからそれが可笑しかったって事!」
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