0人が本棚に入れています
本棚に追加
何処となく抜けた会話になってきた二人だが、その後『占い見る時間はあったんだ』と突かれた朔夜の言葉に勇慧が難無く先に折れ、小さく溜め息を吐いた。
何となく雰囲気の違う一日が、二人の周りで時を刻む。彼女が言う様に、可笑しかった事と言えば今朝がそうだったのではないかと朔夜は考えた。
いつもとは違う時間帯での登校、人の数、音、温度、感覚。
非日常ならではの漠然とした出来事が起こった事。その漠然としている事自体が、最も重要な要素なのだ。
「あれ、そういえば桐くんが居ないけど…。一緒じゃなかったの、朔夜」
朔夜が差し掛かった横断歩道でそう考え込んでいると、隣で信号機の一点を見つめていた勇慧が口を開いた。
その横で、同じく赤信号で足止めを喰らってしまったのか横に佇む数人の小学生。目を細め今更周辺を見直す彼女の仕草に、不審者を見つめる様な視線で彼等は二人を眺めていた。
「…あ、忘れてた。何か、それどころじゃなかったし」
「何やってんの…。それじゃあ、後から来て今も待ってるかもしれないじゃない!」
「あ゙ー…、まぁ、ほっといて良いんじゃね? つーか、桐が遅刻とか有り得ないって」
「ほ、ほっとく…!? …いや、確かに彼がそんなヘマをするとは思えないけど…」
と、そんな二人の雰囲気が張り詰める中、見計らったと思うくらいのタイミングである少女がのんびりと顔を上げた。
「良い年して大人げないですねぇ…、何だか世の中の危機を感じてしまいますーぅ」
おっとりとした語調で呟いたらしき少女の声に、言い合っていた二人は視線を近隣へ変える。
“大人”と呼べるだけの大人が自分達だけしか周囲に居ないという事に気が付いて先ず声を上げたのは、勇慧だった。
「えーと……あの、それって私達の事かな…?」
「そうに決まってるじゃないですかぁ、…自分で気付いていないなんて可哀相な人ですねぇ。あ、これから学校へ?」
茶色い少しウェーブの掛かった髪に、色白で小柄な真ん丸の瞳を持つ小学生は、赤いランドセルを背負い花柄のワンピースを揺らしながら悪意の無い瞳で勇慧を見上げていた。嫌味たっぷりな気がするが、質問されては答えない訳にはいかない。
最初のコメントを投稿しよう!