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「……つーか、せっかく心中察して来てやったってのに何か冷たくね? 軽く傷付くんだけど」
「そう? それは良かったね。まぁ、かなり今更な質問だとは思うけど。と言うより、……今更?」
「……いいや、それ全く笑えない」
窓際から数歩と短い距離を移動した勇慧は、ほんの数時間前に家族の葬式を終えたばかりだとは思えない、非常に穏やかな笑みを浮かべた。
気が付けば、橙色だった筈の辺りは段々と朱色に染まって来てしまっている。
朱、紅、赤。
まるで燃え上がる炎の様だ。
その彩色を頭の中で伝令処理する最中、彼の脳裏に適確な早さで蘇ったのは、寂しさなど感じさせない表情で焼香を上げる彼女の姿、先程の記憶だった。
夕日と入れ代わる様に暗い影を落とし始めた人の形をした影は、濃く、長くその身を伸ばし、その重い影がテーブルを覆う。彼女の机上にあった四人ばかりもの人物が写っているその写真にも、それは被さっていた。
「で、――……何の用で来たの?」
一度扉を閉めて部屋の中へ入る朔夜を眺めると、彼女は今一度深い溜め息を付きながら、単調な言葉で言った。
朔夜にとって睨まれるといった行為は余り良い気分なものでは無いのだが、それは無粋にも今日の様な日に上がり込んでしまった為に文句など言える筈も無い。
それに睨まれていると言っても、自分からすれば、その目からは怖さのかけらも感じられなかった。つまり睨まれていると言う概念を捨てた事で、眉間に寄る皺は消え、少なからず冷淡になれたのである。
そもそも、意味の無い会話をしにわざわざ足を運んだ訳ではない。
葬式の時に深く抱いたある疑問を、彼は晴らしに来たのだった。
「……何、早く言」
「何で、泣かなかったんだよ」
透き通った声の言葉を遮り、素早く口を開いた。
反射して赤くなっていた写真へ手を伸ばそうと下ろした彼女の手が、その発言で一度動きが止まった。
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