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勇慧は彼の質問に満足すると、ゆっくりとした動作で手にしていた写真をテーブルへ置き、至って柔らかい笑顔を向けた。
対面する形で腰を下ろしていた朔夜は、飛び込んで来た次の発言に、一度肩を落とす。
やはり、と大きな吐息を付かずにはいられなかった。
「…私、菜依を殺した犯人を見つける」
決して揺るぎの無い信念と決意を見せるその姿に、彼は融通の利かなかった幼少時の彼女の姿を思い出した。面倒な事きまわりないのは分かり切っているのだが、その真の強さを持つところは、嫌いじゃない。
そんな事を思いながら、結局彼女のサポートから逃れられない事を覚悟した。
「…で、そのアテは」
真っ直ぐな視線を向けて言い放つと、勇慧は顔を上げ頬を綻ばせる。そして先程とは全く比べものにならない程の微笑を浮かべ、短く言った。
「大丈夫だよ。―― 私には、この力があるから」
優しく悟るかの様に答えた彼女の言葉。一瞬にして、頭の中は大量の疑問符が浮かんだ。
問い詰めようと早足に立ち上がるが、そんな自分の足を静止させるべく、勇慧はおもむろに喪服を引っ張り、現わになった右肩の肌を見せる。
そこには純白の、常人ならば有り得ないものが存在していた。
「………百合?」
一体何がどうなって、彼女の肩にそれを浮かばせたのだろう。
…記憶にある限り悶々と過去を探ってみるものの、その様な花が彼女の一部にあった事など、今までの記憶には当たり前の如く存在しなかった。
昔からあったものでは無い。ならば、いつの間にそんなものが浮かび上がったのか。
と言うよりそもそも、それは浮かび上がって現れたものなのだろうか。
力、と口にした単語と、それに関連付ける花の意味も分からない。
増え続ける疑問と不安に、朔夜は混乱と戸惑いにも近い表情を浮かばせる。
「心配しないで? ちゃんと説明するから。…仕方無いけど」
困惑気味の彼の横に、冷たい風が通り抜ける。
静まり返っていた空間に、それは何時もの彼女を含んだ様な口調で話す勇慧の呼気のお陰か、僅かに穏やかな雰囲気が蘇った様だった。
零れ落ちた言葉をかろうじて拾い上げた咲夜だったが、皮肉じみた文末部分に苦笑する。
やっといつもの調子を取り戻した様に見えた勇慧の姿に、朔夜が少なからず安堵した瞬間であった。
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