18人が本棚に入れています
本棚に追加
少女は自分の髪を撫でるサーフィアの作り物の手を、自分の両手でそっと包み込み、頬に摺り寄せた。
愛しいものにそうするように。
「私はサーフィアの手の方がいいわ。だって、いつも私のためにだけ、そこにあるんですもの。ねぇ、サーフィア、そうでしょ?」
「はい、レディ。私はいつでも貴方の為にここに居ます」
その答えに、少女は嬉しそうに微笑んで、ベッドに深く身を沈め、瞼を閉じた。
「……ねぇ、サーフィア」
瞳を閉じた少女が、少し眠そうな声で彼を呼んだ。
「はい、何でしょう、レディ」
「お願いがあるんだけど……」
「何なりと、レディ」
半ば眠りの国へ旅立ちかけた小さな主の傍らに屈み込み、サーフィアは恭しく頭を垂れる。
騎士が姫君に剣を捧げる時のように。
「あのね……手術が無事に終わったら、お願いがあるの……」
「何でしょう?」
夢うつつになった少女が、夢の中でうっとりと微笑む。
「あのね、私のコト……名前で呼んでくれる……?」
一瞬、サーフィアは驚愕したかのように目を見開いた。
他の誰かが今この場面を見ていたら、驚いたに違いない。サーフィアには常に礼儀正しく、絶え間ない微笑を浮かべて主に接するようプログラムが施されているが、それ以外の感情を表現するような機能はないに等しいのだから。
常なら打てば響くような返答を返すサーフィアが、答えを逡巡した事にそれ程疑問も抱かず、少女は再び訊ねた。
「ねぇ、約束して……?」
きっと少女が始めて彼にねだるお願い。
今度こそ、答えはすぐに返された。
「はい、喜んで、レディ」
その答えに安心したのか、少女は微笑を浮かべたまま深い眠りに落ちていった。
最初のコメントを投稿しよう!