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1ヶ月後。
少女の手術の日がやって来た。
この日ばかりは流石に少女の両親も病院へ駆け付け、手術室へ向かう我が子の手を取り、励ました。
万が一この手術が失敗に終われば、少女は成人する事なくその生涯を終えるだろう。それくらいに重要な手術。
必死な表情の両親に微笑みかけて、麻酔の効いてきた朧な意識で少女はサーフィアを呼ぶ。
そっと手に触れた冷たい掌の感触に、少女はうっすらと眼を開け、青空よりも深い蒼の瞳に向かって微笑みかけた。
「……約束………」
酸素吸入器の下から、ようやくそれだけが聞き取れた。
「わかっています、レディ」
その声が届いたのかどうかは判らなかったが、瞳を閉じる瞬間、少女がもう一度微笑んだように見えた。
看護婦に押されたキャリアが手術室の中へ消え、扉の上に明かりが灯る。
少女の命を救うための手術が始まった。
両親は廊下の片隅のソファに力なく崩れ落ち、蒼褪めた不安げな顔で手術室の扉を見つめた。
彼等とて娘の命を救う為に必死なのだ。
入院費を賄い、高い手術費用を捻出し、普通の親には到底不可能な額の治療費を注ぎ込んで、ここまで少女を生かしてきた。
彼等の財力がなければ、少女はとうにその短い生涯を終えていただろう。それ程に、少女が抱えた病は難病だった。
関係者が皆不安げな顔で見守る中、唯一人、サーフィアだけは表情を変えなかった。変えられるように作られていなかったから。
それでも。
彼は胸の中でずっと、たった一つの言葉を繰り返しながら、手術が無事終わるのを待っていた。
それは彼にとって、この世で一番価値のある言葉。
何より大切な、魔法の呪文。
何時間かが過ぎ、ランプが消えて手術室の扉が開いた時、最初に口にする約束の言葉。
この世で何より愛しいその名を呼ぶ為に、サーフィアは廊下の隅で、じっと微動だにせずに立ち尽くしていた。
その瞬間に、少女が花のように微笑む姿を思い浮かべながら。
...End
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