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少女の小さな顔を両手に挟み込み、男はうっとりとその瞳を覗き込む。
「寄宿舎生活は辛くないかい? 何でも1人でできているのかい?」
「平気よ、パパ。もう子供じゃないわ。お友達もたくさんできたし、心配しないで」
どうやら遠くの寄宿舎で生活を始めた娘が、初めて父親の元へ帰って来たらしい。
心配性の父親は、遠く離れて暮らす愛娘の事が心配で居ても立ってもいられない、と言ったところか。意外と娘の方が、見た目以上にしっかりしている風に見受けられる。
それでも心配な父親は、幾度も幾度もくどい程に「大丈夫か?」を繰り返す。
だいたいにおいて、男親の方が娘には甘いと相場が決まっているが、この父娘も例外ではないらしかった。
些か度が過ぎる父親の心遣いにもいやな顔一つせず、少女は笑顔で「平気よ」を繰り返し、父親をたしなめる。
誰が見ても微笑ましい父と娘の図。
互いに相手を思い遣り、何より大切にしている事が見て取れる、理想的とも言える親子。
ただ。
そこにあるべきもう一人の片親の姿が全く見えない事だけが、些か違和感を覚える事ではあったのだが。
しかし、久々の再会に嬉しそうに話し込む父娘の表情には、そんな疑問を挟む余地など全く窺えなかった。
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