紫水晶~Amethyst~

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 それからの僕は、毎日が楽しくてたまらなかった。  毎日決まった時間にアメリアはやって来て、体温を計り、僕の体調を気遣い、身の回りの事をあれこれ片付けてくれた。  その間一度だって、疲れた顔を見せたり、愚痴をこぼした事はない。  看護婦と言う職業は想像以上に重労働だろうに、感心するくらい健気に一生懸命尽くしてくれた。  それは看護婦として当然の仕事だったんだろうけど、僕がそんな彼女に恋をするまで、たいして時間は必要なかった。  僕は彼女の関心を引こうと必死になった。  ――正確には、僕達は。  彼女が担当する患者は、どうしてだか若い男ばかりだった。  10代半ばから30代前半の、はっきり言ってやりたい盛りの男達ばかり。それも、1人で担当するには多すぎる程の人数を彼女は抱えていた。  当然ながら、僕らは全員彼女に好意を持ち、そして互いに牽制し合いながら、他の連中を出し抜けるチャンスを狙っていた。  僕らは皆、彼女に少しでも迷惑を掛けない為に、医師の言い付けはしっかり守って模範的な患者だったし、リハビリも人一倍頑張った。僕は悪友達が持って来た話を面白おかしく話して聞かせたりもした。  けれど、彼女はいつも笑って楽しそうに僕の話を聞いてくれたけど、仕事が済むとさっさと行ってしまって、全く取りつく島がない。  いくら気を引こうと努力しても、彼女はそれに気付かないフリでするりと躱してしまう。  僕は全く相手にされていないってコト?  いや、そんなハズはない。  だって、彼女はあんなに楽しそうに僕の話を聞いてくれるし、いつも見せてくれる笑顔は他のナース達が見せる『仕事』用の笑顔なんかとは全く違っている。  ストレッチャーに移動する時、必要以上に身体を密着させていると思うのも、気のせいなんかじゃない筈だ。至近距離でふと目が合った時も、彼女はいつも笑っているんだから。  本物の笑顔。仕事用の取って付けたような笑顔とは全然違う。  絶対絶対ぜったい、彼女も僕の事が気になってる筈だ。  ただ――彼女の担当する患者全員が、そう思っている事は否めなかったけれど。
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