紫水晶~Amethyst~

6/7
前へ
/122ページ
次へ
 シティ特有の機械臭い錆びたような匂いの風が吹き、雲ひとつない青空の下、遠くを走るエアカーの噴出音だけが微かに耳に届くその場所で。 「あなたも私が『好き』だと告白する為に、ここに私を呼んだのですか?」  いきなりの先制攻撃に、僕は言葉をなくした。  なんて言ってもやっぱり自信があったし。  彼女が僕に向ける微笑みは、ただの患者と看護婦のそれじゃなくて、心が通い合った者同士のそれだと確信していたし。  今まで彼女が他の連中を悉くフッていたのは僕の為だと――やっぱり心の片隅では思っていたし。  なのにこの台詞はないんじゃないか? 「どうなんですか?」  いつもと変わらず穏やかな口調で、それでいて優しい白衣の天使とはどこか違う雰囲気で、彼女が返答を求める。 「いや……確かに、そうなんだけど……」  僕は歯切れ悪く頷くしかない。  彼女は「やっぱり」と言う顔をして、それから困ったような表情を見せた。 「あなた方が何をどう勘違いしているのかよく判りませんが」  勘違いも何も、君のその微笑みはホンモノだろう? 僕にだけ見せてくれた優しさは!? 「私はあなた方の言う『好き』には応える事ができません」
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加