18人が本棚に入れています
本棚に追加
中央市(セントラルシティー)の西の外れに建つ工場で生まれた彼は、青玉の瞳と光を反射してきらきら輝く淡い水色の髪を持っていた。
製造番号SP-MBB-30154。サファイア・シリーズ・アンドロイド。
しかし彼の所有者は、彼を『サーフィア』と呼んでいた。
彼――サーフィアは、生まれつき身体が弱くて、生まれてからずっと病室から一歩も外へ出た事がない少女の身の回りの世話を任されていた。
少女の両親は資産家だったが、事業と少女の治療費を稼ぐ事に忙しく、ほとんど少女を見舞った事がなかった。自分達が構ってやれない代わりに、サーフィアを少女に買い与えたのだ。
サーフィアの正式な所有者は少女の父親だったが、サーフィアにとって最優先される命令は少女のものだった。そのようにプログラムされていたから。
1体で豪邸が建つ程高価な彼等を、ぽんと買い与える気前の良さは、少女を見舞ってやれない後ろめたさの表われだったろう。
「ねぇ、サーフィア」
ベッドの上の可哀想なくらい痩せ細った少女が、小首を傾げながら、下からサーフィアの顔を見上げるようにして彼を呼んだ。
その声に、僅かにだが怯えたような響きがある。
サーフィアはいつもと同じように穏やかな微笑を浮かべ、聞く者を安堵させる心地よい、しかしどこか無表情な声で答えた。
「何でしょう、レディ」
少女は彼のマスターではなかったから、サーフィアは少女の事をいつもそう呼んだ。
その事を、少女は少なからず不満に思っているらしかったが、そのようにプログラムされている以上、サーフィアに他の選択肢はない。
最初のコメントを投稿しよう!