1、恋が降ってきた

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   「ぬあー降ってきた!」 柏木 祭(かしわぎ まつり)は空を恨めしそうに睨んだ。 改札口を出た時から曇天でいやな予感はしていたが、自宅マンションまでの20分ぐらいもつだろうと思ったのがそもそもの間違い。 歩きはじめて5分もしないうちに「ポツリ」と肩ほどまでの伸びた真っ直ぐの黒髪に雨粒が落ちたかと思うと、あっと言う間に「ザアーッ」という大音響の豪雨へ。 髪どころか、制服のブラウスやタータンチェックのスカートまで、余すところなく雨に塗りつぶされていく。 「最悪ぅぅ!」 小さな唇をとがらせて、ほほをぷぅと膨らませる。 マンションまでの道は住宅街と公園で雨宿りする場所はない。 「ふう」と小さくため息を一つついて早歩きをやめた。 ここまで濡れたら今さら急ぐ必要もない。
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