1、恋が降ってきた

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     「ほら、タオル」 頭にかぶせられたタオルは、ふわふわしてお日様のいい香りがした。 包まった状態で顔や頭をゴシゴシ拭き、タオルの隙間から御堂を見ると、ずぶ濡れの右肩を拭いていた。 (私が濡れないように傘を傾けてくれたんだ。「おじさん」って言って悪かったなぁ) 祭が見つめる中、御堂は首元に手をかけシュルリと音をたててネクタイを緩めた。 ドキン ただそれだけの動作なのに色気がある。 濡れて肩が透けているから? 髪が濡れているから? 違う――同級生とは違う大人の男がそこにはいた。 「顔が赤いな。風邪ひいたか?」 御堂は祭のおでこに手をあてた。 大きな男の手。 ドキンドキン 「……車で送るよ」 「車っ!? いっ、いいです!歩きで十分ですっ」 「歩きは俺が疲れるんだ。ホラ行くぞ」 祭を追い立てるようにして部屋を出てエレベーターで地下駐車場に到着すると、黒い四駆のハザードが点滅してロック解除の音が響いた。
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