第七回「クリスマス」

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 十一月最後の日は、雨が降っていた。パンプスを履いた爪先の冷たさに、冬の訪れを感じる。いい加減コートを新調しなければ、などとあれこれ考えながら家路につくと、ヨシユキが来ていた。  背の高い恋人は、二人掛けのソファで、窮屈そうに丸まって寝息を立てている。傍らのローテーブルには平べったい箱が立ててあった。雪だるまと大きなもみの木が描かれた長方形の箱には、一から二十四までの数字が振られた窓がついている。ミシン目に沿って破れば開けられるらしい。 「なあに、これ」  まるで冬眠の途中で目を覚ました熊のように不機嫌な顔で、ヨシユキがのっそりと起き上がる。彼はとても寝起きが悪いのだ。 「アドベントカレンダーだよ」  ぼそりと呟いたヨシユキは、眠そうなまぶたはそのままに説明を始めた。十二月一日から二十四日まで、毎日ひとつずつ窓を開けていく。中にはチョコレートや金色の星など、ちょっとしたプレゼントが入っているらしい。 「へえ、何のために?」 「クリスマスのために」  なるほど。  毎日少しずつ近づくクリスマスに備えて、心構えをしていくということか。私の言葉に、彼は苦笑いを浮かべた。 「クミはまるで、クリスマスが来るのが嫌みたいだね」 「嫌ではないけれど」  クリスマスだからといってはしゃいで楽しめるほど、私はもう若くないのだ。  五つ下のヨシユキは、たまにふらりとやって来てはまたすぐにふらりといなくなる。気まぐれな野良猫を飼っているみたいで、時折ぽっかりと心に穴が空いてしまう。  きっと、クリスマスも一人で過ごすことになるだろう。寂しさを受け流すためには、心の準備が必要なのだ。 「ひどい言われようだ」  ヨシユキは肩をすくめると、二十四番目の窓を開けた。迷いのない、自然な動作だった。 「フライングだけど、メリークリスマス。結婚しよう」  節くれだった長い指が取り出したのは、透明な石がきらきらと輝く金色の指輪だった。  彼は私の左手を取るが、私はあまりの驚きに口を金魚みたいに開け閉めするばかり。ヨシユキは愉快そうに笑った。 「二十四日まで、僕の奥さんになる準備をしていてね」  どうやら、今年のクリスマスは大変なことになりそうだ。  薬指できらきらと光るダイヤを眺めながら、私は幸せなため息をついた。
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