第十二回「エイプリルフール」

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 ずんぐりとした指がリモコンを忙しなく押す。 「平日の昼過ぎなんて、ろくな番組がないな」  そうぼやくけれど、本当はテレビなんてさして興味がないのを私は知っている。読みかけの少女漫画に目を戻せば、じれったい二人の関係はそろそろ進展しそうだ。それに比べて、私たちは。 「母さん、遅いな」 「そうだね」  座椅子の上で、居心地悪そうに体を揺らす父さん。  父さんの勤めていた会社が、先月のはじめ倒産した。冗談のようだが、本当のことだ。  以来、父さんはほとんど家にいる。下手に再就職するよりも、失業保険をもらっている方がお金になるそうだ。  けれど私が春休みに入ってからは父さんは少し戸惑っているように見える。仕事優先に生きてきた人だからだろうか、私もいまいち距離感が掴めない。  だから、ほら。 「玲子、最近学校はどうだ」 「うーん、春休みだからなあ」 「そういえば、そうだな」  ぎしぎしと軋むようなぎこちなさに、私はあと何日春休みが残っているのか壁掛けカレンダーに目をやった。そして、そのまま父さんに視線を移す。 「……なんだ」 「今日、何の日か知ってる?」  父さんは不思議そうな表情を浮かべて壁を見上げると、得心したように頷いた。 「無理に会話しようとしなくても、私は父さんのこと、好きだよ」  私は早口で言い終えると、漫画を手に立ち上がった。  ぽかんと口を開けた父さんをそのまま居間に残し、自分の部屋に戻る。  今頃、父さんは私の言葉が嘘かまことか一生懸命考えているに違いない。そう思うとおかしくて、私は本棚の前でくすくす笑った。  嘘の、嘘は、ほんとう。  父さんは、エイプリルフールの嘘は午前中までだって、ちゃんと知っているだろうか。
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