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「あたし、ちょっと変わってるってよく言われるんだ」
藤堂さんは薄い唇を少し歪めて、小さく呟いた。私も、それと同じくらい小さな声で「そう」とだけ答える。他に気のきいた切り返しが思いつかなかった。
私の反応の薄さに、彼女はむっとした表情を浮かべる。
私はそんなこと言われてもなあ、と思いながらコピー機にノートを挟んだ。おととい昨日と熱を出して休んだぶんの板書を写させて欲しい、と前の席の藤堂さんに頼んでしまったことを既に後悔しはじめていた。
けれど、仕方ないのだ。クラス替えしたばかりで級友たちとは馴染みが薄く、選択授業の化学を取っている人が彼女以外に思い浮かばなかった。
「時田さんって、変な人」
資料室のドアにもたれ、藤堂さんはため息をついた。
自分で自分を変わってるって認めているくせに私のことは変人扱いするのか、と思ったけれど口には出さない。
すると彼女はじれたように舌打ちをして、私の三つ編みを片方、手に取った。左側に引っ張られる痛みに私は眉をしかめる。
「会話くらい、しようよ。すましちゃってさ」
グロスを塗っているのだろう、てらてらと光る唇を尖らせて藤堂さんは私を見据える。
きっと、鏡の前で何度となく練習したのだろう。そのコケティッシュな表情は、周りを振り回すだけの力を持っているように思えた。
少し変わっている、だけど魅力的な女の子。彼女が目指している位置づけが透けて見えて、私はうんざりする。
「ねえ聞いてるの?」
もう一度ぐい、と三つ編みが引かれる。まずい、と思った時にはもう遅かった。
「なに、これ」
彼女の腕は、見えない何者かにひねりあげられたようにねじれていた。慌てて力を弱めるが、もう遅い。
「……私も、ちょっと変わってるんだ」
青ざめた顔の藤堂さんにコピーの終わったノートを渡すと、彼女はそれを抱えて一目散に逃げて行った。
ぱたぱたと、靴音が誰もいない廊下に響く。
何から何まで、失礼な人。
私はまだ温かいコピー用紙を揃えながら肩をすくめる。
これだから、自称不思議ちゃんは困るのだ。
超能力くらい、個性だって認めてくれたっていいのにさ。
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