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お菓子をくれなきゃ、悪戯するぞ、なんて。
だったらお菓子の代わりにあたしを食べて。
マシュマロみたいにふわふわでもないし、ゼリービーンズみたいに甘くもないけれど、あなたに抱きしめられたらあたし、エスプレッソに浮かべたバニラアイスみたいに溶けてしまいそう。
ねえ、魔女って本当にいるのかな?
イモリの黒焼きを譲ってくれるならあたし、だいたいのものは引き渡してしまうと思うな。いまのあたしは、あなた以外に欲しいものなんてないもの。
だけど。
「片山?」
名前を呼ばれて一瞬にして引き戻される現実は、とても苦い。吸血鬼に扮したあなたの隣には、オーガンジーのミニワンピースがよく似合う妖精の彼女。金髪のウィッグが、コケティッシュな魅力を引き立てている。
それに比べて、あたしは。
「お前、それ手抜きだろ」
黒猫の着ぐるみパジャマに、アイライナーで描いたヒゲ。やる気なさげに見えるのは、承知の上だ。
だってかわいく着飾ったとしても、あなたはあたしを選ばない。柔らかくへこんだ両頬のえくぼさえ、こんなに愛しいのにな。
「うるさいよ。あたしは実花ちゃんみたいにスタイルよくないし」
「そんなことないぜ。こいつ、意外と下っ腹出て……いてっ」
「譲ってば、ひどい」
じゃれあう二人は付き合って、もう一年になる。
だけど知ってる?
あたしがあなたを好きになって、二年が過ぎたこと。誰にも言えず、ひとり恋い焦がれてたこと。
「悪かったって。な? 機嫌直せよ」
「じゃあ明日、カトレアのケーキセットおごりね」
「えー、あそこ高いじゃん」
幸せそうな恋人たちの夜、あたしはただの引き立て役で。だから仮装パーティーなんて、いやだった。
だけどなんだかんだ言ってあなたに会いたくて参加してしまう、自分の弱さが一番嫌い。
「そろそろ、行こ」
一生懸命口角を引き上げて、あたしは歩き出す。鼻がツンとするのはきっと、肌寒い夜の校舎のせいだ。
トリック・オア・トリート。
口の中で呟けば、切なさがこみあげる。
お菓子なんていらない。
欲しいのは、あなただけ。
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