第二十一回「わたし(だけ)の〇〇 年越し編」

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 半襟を選ぶ瞬間はいつも、心が浮き立つ。  思いきり鮮やかなターコイズブルーでモダンに決めようか。  繊細な刺繍半襟で正統派を気取ろうか。  思い思いの姿で寛ぐ猫の柄で遊んでみようか。  しがない派遣OLの私が買える着物なんて、たかが知れている。誂えるほどの余裕もないので、オークションや古着屋で厳選に厳選を重ねて買ったものばかり。  アンティーク、と言えば聞こえはいい。  少々くたびれていた方が、着物も帯も体に馴染む。  が、やっぱりいつかはオートクチュールの一着を、と思わずにはいられない。  友人の付き合いで通い始めた着付教室は、いつの間にか私の世界を変えて行った。誘ってくれた由香でさえ、驚くほどに。  インターネットで知り合った同好の士と浅草や谷根千を散策することが、こんなにも楽しいなんて知らなかった。  私生活が充実すれば、仕事にも張りが出る。仕事に誠実に向き合えば、人間関係も円滑に進む。  そのうえ、デートのお誘いという嬉しいおまけまでついた。 「初詣、一緒に行かない?」  前からいいなと思っていた社員の内田さんから爽やかに言われ、一も二もなく頷いた。  晴れ着、というほどの華やかな装いはできないが、先週西荻窪で買った銘仙を着てゆくいいチャンスだ。青地に白の水玉が散らされ、雪景色を思わせる。  あれにはクリーム色の名古屋帯が合いそうだ。帯絞めを臙脂にしてシックに。けれど大きめの薔薇柄がかわいい薄紫の羽織で女らしさもプラス。  次々と浮かんでゆく組み合わせに、テンションはうなぎ登りだ。  次は半襟。  見える面積は小さいけれど、これによってがらりと印象が変わる。着物と違って気軽に買い足せるのも素晴らしい。  さあ、どれを合わせよう。  色とりどりのコレクションを前に、私は笑みを深くする。  白地に青の水玉だと決めすぎかしら。  サーモンピンクのちりめんもかわいいな。  そうだ、レモンみたいな黄色はどうだろう。顔色が明るく見えて、新しい年の始まりにはぴったりだ。  うん、これで行こう。  私だけの一着はまだ買えないけれど、会心のコーディネートは幸せな一年を約束してくれそうだ。  
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