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また病室の扉が開き、私はそっちに目をやる。
「あ…、来た」と思ってしまった。
「由貴、大丈夫?」
「あぁ、平気」
「あ、彼女さん。こんにちは」
「こんにちは…、由貴くん私トイレ行ってくるね」
「ん、分かった」
アホな彼氏、由貴(ユキ)の元カノ。
というより、今でも由貴くんが誰よりも愛している人。
病室を出て、扉の前で聞き耳を立てる。
そんな最低な私。
「沙織、心配した?」
「したに決まってるでしょ。飛んで来たんだから」
「ははっ、そうなの?」
「そうなの?じゃないよ。また皆に心配かけて」
「…さおたん、キスして」
「もう、馬鹿」
それから少し、シンとする病室。
何か嫌で、気持ち悪くてトイレに向かう。
すでに涙なんて出ない。
悲しいけれど、もう慣れてしまった。
けれど、馬鹿な私は由貴くんに愛されたくて別れられない。
「もう嫌だ…」
無意識に口から感情が漏れる。
手をいっぱい洗った。
汚い気がして、ずっと洗った。
汚いのは、由貴くんなのに…。
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