片想愛

12/20
前へ
/182ページ
次へ
“現場”を見たのは初めてだった。 扉を開けると、由貴くんと沙織さんが濃厚なキスをしていた。 きっと私が来るから、沙織さんが帰ろうとしてバイバイのキス。 「おい、あんた何してんだよっ!!」 「……今井…」 殴られたことにビックリしているのか、見られたことにビックリしているのか由貴くんは呆然としている。 「晴矢、良いよ。大丈夫」 「何がだよっ!!」 「慣れてるから、大丈夫。帰ろう、晴矢。ほら私たち邪魔みたい……」 そこまで言って、涙をこらえられなかった。 「ハハッ、じゃま…、うん。ごめっ…」 「あ、美帆っ!!」 走って来た道を戻る。 沙織さんは一言もしゃべらず、気まずそうにしていた。 由貴くんは私を見ずに、晴矢だけを見ていた。 病院の非常階段、晴矢に腕を掴まれて立ち止まると更に涙が溢れる。 「せぇ、や…。うぅっ……」 「よしよし」 久々に声を出して泣いた。 その間、晴矢はずっと頭を撫でていてくれた。
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加