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“現場”を見たのは初めてだった。
扉を開けると、由貴くんと沙織さんが濃厚なキスをしていた。
きっと私が来るから、沙織さんが帰ろうとしてバイバイのキス。
「おい、あんた何してんだよっ!!」
「……今井…」
殴られたことにビックリしているのか、見られたことにビックリしているのか由貴くんは呆然としている。
「晴矢、良いよ。大丈夫」
「何がだよっ!!」
「慣れてるから、大丈夫。帰ろう、晴矢。ほら私たち邪魔みたい……」
そこまで言って、涙をこらえられなかった。
「ハハッ、じゃま…、うん。ごめっ…」
「あ、美帆っ!!」
走って来た道を戻る。
沙織さんは一言もしゃべらず、気まずそうにしていた。
由貴くんは私を見ずに、晴矢だけを見ていた。
病院の非常階段、晴矢に腕を掴まれて立ち止まると更に涙が溢れる。
「せぇ、や…。うぅっ……」
「よしよし」
久々に声を出して泣いた。
その間、晴矢はずっと頭を撫でていてくれた。
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