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「ごめんね…思い出せなくて」
「いいんだ。こっちこそ、驚かせてゴメンな」
遼は僕をそっと離した。
「それじゃあ、また明日な」
くるりと背を向け、歩いていってしまう。
「また、明日ね」
急いでそれだけ言うと、彼はこちらを振り向かないで、それでも手を振ってくれた。
遼の背中を見えなくなるまで見送って、僕は空を見上げた。
今夜は満月。
でも、せっかく月は霞がかかり、半分雲に隠れてしまっている。
それはまるで、遼の告白にすぐに返事ができない僕のようで…。
遼ほど魅力的な人なんて、そうそういない。
そんな人に愛を告白されることなんて、多分もう、一生ない。
遼なら間違いなく幸せにしてくれるだろう。
でも…。
何かが引っかかっていて。
でも、それが何なのかわからなくて。
僕は、やりきれない気持ちのまま月を見続けていた。
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