第1章

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中に入るとまず、奥のアップライトピアノが目についた。 生演奏とか、するんだろうか。 店内を見回すと、カウンターに人がいた。 「あ、すみません。まだ、開店前なんです」 「すみません。僕、水嶋龍司の甥なんですが、龍司さんにここに来るように言われて…」 僕がそう言うと、彼はカウンターから出てきた。 テレビや映画で見かけるバーテンが着ているような、白いシャツに黒いベスト、蝶ネクタイに、腰から下には長いエプロンを身に着けた彼は、僕より少し小さくて、華奢だった。 ちょっと垂れ気味で大きな目に、つり眉。まつ毛が長くて、黙っていれば女のコに見えない事もない。…年は同じ位か、彼の方が少し年上かな。 「ああ、君が巴君か。俺は大沢単。龍司とは高校が同じでね、今は一緒にこの店をやってる。よろしくね」 彼は、僕の顔を見て微笑んだ。 …信じられなかった。 何がって、彼が大沢単だって名乗ったことがさ。 だって、龍司さんの1つ先輩って事は、35歳って事で…。 とてもそんな風に見えない…。 何かの悪い冗談なんじゃないかって、本気で思った。
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