一章 【帝王の存在】

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「一昨日は暴走してたバイクを警察の前で伸したとか」「バイクに乗ってる相手をバイクごと蹴りとばしたんだろ」「ありえないよな」  その横を、光と愛美は通り過ぎる。 「昨日の不良なんかナイフとか持ってたって話だぜ」「マジかよ」「そうそう、しかも警察でも捕まえられないんだって」「なんでも警察、拳銃使ったとか」 というところまで聞けたが、席につくと後は聞こえなかった。聞こえないくらい離れた場所に席があるので当然だが。光と愛美は同じクラスで、数日前に行われた席替えで、くじ引きにより隣同士の席になっていた。 「おはよう愛美」「いっちー♪」「愛美ちゃんおはよう」  教室に入れば、明るい性格の愛美にはたくさん友達がいる。そんな愛美の隣の席で、光は本を読む。〝キーン、コーン、カーン、コーン〟その時鐘が鳴り、担任の先生が教室へと入ってきた。 「えー今日は、みんなも知っていると思うが、このクラスに転校生が来ることになった」 教卓の前に立ち、担任の先生は話し始めたが、光は本を読んだまま話を聞こうとしない。 「初めまして、今日からこの学校に転校になった、『雨禰 八雲』です」 「!」  だが、八雲の名を聞いたとたん、光は本から顔を出し、八雲を見つめた。八雲は170cm近くある身長に、スリムな体つきで、髪はロングヘアーの見た目はきゃしゃな女の子だ。 「…八雲」  そんな八雲を周りの男子と違い、光は驚いたように見ていた。 「どうかしたの? 光」  そんな光を見て、愛美は不思議そうな顔をしている。 「なんでもないよ」 「ほんとに? じゃあなんでそんな眼してんのよ。周りの男子のエロ目とは違…」  その時、愛美は絶句した。八雲と光の眼があったのか、八雲が光を見て微笑んだのだ。 「雨禰、お前は後ろの空いている席に座りなさい」  八雲は、愛美や光とは離れた席に座った。それから休み時間に入り、八雲は男子に囲まれ質問攻めにあっていた。開放されるのは、授業が始まるまで無理そうである。
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