一章 【帝王の存在】

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とても穏やかな八雲の声。しかし、光は八雲から手を離し、背を向けて歩き出す。 「戻ってきて下さい! 『天帝』」  八雲の叫びに、光は足を止め黙る。 「…八雲、今の俺に帝王を名乗れるとしたら…ただの光帝だよ」  そう言うと、光は屋上から出て行く。 「…それでも、あなたは天帝なのですよ」  残された八雲は寂しそうに、空を見つめる。  それからは、放課後まで光は不機嫌だった。そして、忘れるかのように部活へ没頭している。 「なあ山崎、今日の小牧はどうしたんだ? いつになく真面目だぞ」  眼鏡をかけた女性でバスケ部の顧問の先生が、光と同じクラスの生徒に尋ねる。 「今日うちのクラスに転校生きたでしょ。なんか昼休みにその子とどっか行って、帰ってきてからあんなんすよ」 「ほほう。…さてはふられたな」  顧問の先生は生徒の恋愛話を聞いて面白がっていた。 「…どれどれ、じゃあ今日はたくさんしごいてやるか。…全員、ゲームの準備しな!」  それから二時間ほど、光も含めバスケ部の部員は練習に打ち込んだ。 「よーし、今日は解散。お疲れさんでした。ちゃんとストレッチとかしときなよ」  そう言って顧問の先生は体育館を出て行った。 「今日はいつもより厳しかったな」「まあこういう日もあるさ」「早く帰って勉強しないと」  部員達は、着替えをして帰る準備をしていた。そんな中 「お先に」  光はすでに着替えを終え、体育館を出て行った。外は少し寒く、夏の終わりを知らせているようだ。 「!」 「お待ちしていました。光様」  校門を出たとき、目の前に八雲が立っていたのだ。 「…お前、ずっと待ってたのか?」 「はい。…どうしても、お伝えしなければならないことがありまして」  すると八雲は、すこしかがんで光を見上げた。 「神帝は、『三星帝』を探しています。つまり、光様をです。…これから、何人もの刺客が光様を狙うでしょう」  しかし光は、眼を反らす。 「どうか、天聖城へお戻りを。このままでは、この辺りの住民の方々にまで被害が及びます」 「俺は戻らない。…戻れないんだ」  すると、光は八雲の前へ行き、八雲を立たせた。 「力を使えば、修復や回復はできる。…だから、お前達は必要ない」  そして、光は八雲の側を通り過ぎる。
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