一章 【帝王の存在】

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「光様。…あなたの時は、月帝と一緒に止まってしまったのですか?」  しかし、光は止まらない。震える声から、八雲が泣きそうになっているのがわかる。 「!」  次の瞬間、歩く光の姿は消え八雲の前に立っていた。そして八雲を抱きしめる。 「俺は、エンゲージリング(約束の指輪)への誓いを守れなかった」  見れば、光の左の小指に指輪がついていた。 「だから俺は一生、天帝には戻れないかもしれない。…新たな天帝を探せ。それがお前達のためなんだ」 「………、光様」  気付けば、光はどこにも居ない。 「エンゲージリング。…その指輪に誓いをたてると大いなる力を授かり、その誓いを守れなかったときは大いなる呪いが降りかかると言われる伝説の神具」  そして八雲は、エンゲージリングの伝説を思い出す。 「光様、あなたを縛っているのはエンゲージリングではなく、月帝を想うあなたの心ですよ」  八雲は思い返すように呟くと、また空を見上げる。  校門から少し離れたところを、光は歩いていた。小指に、さっきの指輪は見当たらない。 「罪は、許されるのだろうか。…三千年経っても、答えがみつからない」 「待ってよー! 光」  見れば、後ろから愛美が走ってきていた。顔がどこか暗いが、光はさほど気にしなかった。 (悩み事をする暇さえないか…) 「もう、やっぱり光は早いよ! バスケ部よったらもう帰ったって言われて走っちゃったよ」 「走るか話すかどっちかにしろよ」  そう言いつつも、光は愛美を待つ。 「朝も言っただろ。17にもなって何で妹と帰らなきゃいけないんだ?」 「何言ってんのよ。女の子一人を暗い夜道帰らせる気?」  朝と似たような光景。 「…光?」  しかし、朝とはまるで違っていた。 (…一人、…いや、三人か)  すでに、光と愛美は刺客に囲まれていたのだ。 (見つかったのか? こんなに早く。…しかも、一人は帝王か) 「ねえ光?」 (こう囲まれちゃ、愛美を一人にするわけにも。かといって、愛美の前で力を使うのも)  今の光るには、愛美の声は届いていない。 「愛美、行くぞ」  光は愛美の手を取り、とりあえず人気の多い場所へ行こうとした。 (いくらなんでも。人前で襲っては来ないはずだ)  そして急いで商店街の方へ出る。
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