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夕暮れが、空ばかりでなく、空気までもを橙に染める。
坂の麓にいたときは果てしなく遠く見えた頂の宿も、ふと見上げれば大分近付いていることに気付く。
足を引きずらないように、注意して歩みを進める。
少しでも私の辛い表情に気付けば、2、3歩前を歩く彼はたちまち眉をしかめるだろうから。
それはけして怒りや憤りなどという負の感情ではないと、私は知っている。
純粋な心配。
そして何も言わずに、私の荷物を持ち上げてくれるだろうから。
彼の3分の1くらいの、小さな荷物なのに。
そんな迷惑をかけたくなくて、私は必死に足を前に出す。
肩越しに私を振り返る彼に、微かな笑顔を向けながら。
ふたりで旅を始めて、5日目が暮れようとしている。
この5日で私が痛いくらい思い知ったこと。
……それは。
涼やかなブルーの瞳は、とにかくひたすらに、優しいこと。
本当に、クレア・ガルーダという人間は、優しい男だ――。
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