意地っ張りの憂鬱~キアラ~

2/10
前へ
/159ページ
次へ
夕暮れが、空ばかりでなく、空気までもを橙に染める。 坂の麓にいたときは果てしなく遠く見えた頂の宿も、ふと見上げれば大分近付いていることに気付く。 足を引きずらないように、注意して歩みを進める。 少しでも私の辛い表情に気付けば、2、3歩前を歩く彼はたちまち眉をしかめるだろうから。 それはけして怒りや憤りなどという負の感情ではないと、私は知っている。 純粋な心配。 そして何も言わずに、私の荷物を持ち上げてくれるだろうから。 彼の3分の1くらいの、小さな荷物なのに。 そんな迷惑をかけたくなくて、私は必死に足を前に出す。 肩越しに私を振り返る彼に、微かな笑顔を向けながら。 ふたりで旅を始めて、5日目が暮れようとしている。 この5日で私が痛いくらい思い知ったこと。 ……それは。 涼やかなブルーの瞳は、とにかくひたすらに、優しいこと。 本当に、クレア・ガルーダという人間は、優しい男だ――。
/159ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加