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やっとの思いでたどり着いた宿は見た目以上にボロい。
それでも、一日歩き続けた体にとっては最高の閨だ。
クレアがフロントで部屋を取っている間、私はフードを取って辺りを見回した。
1階の隅が酒場になっているらしく、陽が沈む前だというのに、ガラの悪い男がたむろしている。
その中の数人のグループがにやにやしながらこっちを見ているのに気付いて、私は慌てて黒いフードをかぶり直した。
旅を始めて、2日目にクレアが買い与えてくれた黒いフード。
南の一部の地域では、若くして夫を亡くした未亡人が黒いフードを身にまとい、1年間旅をする――という風習がある。
それをしないと、妻は夫を喰い殺した悪魔の化身として扱われ、住家を追い出されてしまうのだ。
いわば悪霊祓いの旅。
『旅の未亡人と、そいつに雇われた傭兵……ってほうが、詮索されないし目立たない。
……だろ?』
クレアはそう言っていたけど。
割と、目立ってはいると思うんだけどなぁ……?
詮索されないってのは本当だけど。
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