意地っ張りの憂鬱~キアラ~

4/10
前へ
/159ページ
次へ
「キアラ、行くぞ」 「はぁい」 ちゃり、と鍵を渡される。 部屋番号を確かめて、階段を上がった。 「メシ、あとで部屋に運ぶから。 出掛けるときは声かけろよ」 「わかってるってば」 まるで、過保護な父親だ。 宿に泊まるときの、もはや恒例になったやり取り。 ドアを押すと、きぃと僅かに軋んだ。 フロントの様子ほど、ボロくない。 それなりに手入れはされた部屋だ。 「ふわぁ~……」 思わず、溜め息が出た。 「疲れた……」 そのままベッドにダイブしたくなるのを堪えるのに苦労する。 代わりにそっと、ベッドの端に腰掛けた。 しばらくそのまま、ぼーっと過ごす。 頭を真っ白にして何もしない時間は、楽だけどなんだか勿体なくもある。 ふと思い直して、慎重にブーツの紐をほどいていく。 山越えがあるから、と選んでもらったこの靴は、頑丈だがとにかく重い。 「……マツトに着くころには、きっと足ムキムキね、私」 独り言で笑ってしまう私は、かなり重症の疲労だと思う。
/159ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加