彼女

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香織ちゃんがこっちを向いたときには、普通の表情に戻っていた。 それがまた恐怖を倍増させたけれど、僕は顔に出さなかった。 「八木坂さん…一体、どうし」 言い終わる前に、彼女は行動を起こしていた。 ぺろり、と左の頬を舐められる。 完全に止まってしまった僕の肩に手を添えて、さっきの傷口を…って。 「か、かかか…香織ちゃん!?」 あまりのことに動揺して後退り、壁に頭をぶつけてしまった。 鈍い音がして、一瞬意識が飛びかけた。 香織ちゃんはうずくまった僕を見て、くすくす笑いながら右手を差し伸べる。 「初めて香織ちゃんって…呼んでくれましたね」 「えっ?あっ…」 手を取りながら、いつもは恥ずかしくて、名字で呼んでいたことに気づいた。 「ご、ごめんね…ありがとう」 無意識に距離をとって、立ち上がった。
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