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「あなた、生き延びたよ。」
心地良い声がオレに話しかける。
「何があったか知らないし、聞きもしないけど、一つ言わせてね。
あなたを助けた訳じゃない。
ボコボコにやられてる時のあなた、もう、生きる事を諦めてたでしょ。
ていうか、待っていたようにも見えた。死が迎えに来るのを…。
だから、助けた。
生きる事を放棄するなんて許せないから、だから…。」
そう言った女性は
心地いい声から、感情を押し殺した冷めた声に変わっていた。
胸が痛かった。
オレの事をよく知りもしないのに、全てを見透かされた気がして悔しかったし、恥ずかしかった。
言葉が出て来ない。
「健三。」
「キャンディって言ったら返事する!」
「私帰るから、あとよろしく。」
「…。」
「…よろしくキャンディ。」
「オッケィ!」
彼女は背を向け、キャンディと呼んだ人の所へ歩いて行った。
ようやく視界がはっきりしてきたオレは、彼女の後ろ姿を追っていた。
長い髪が一つに束ねられ、背中の開いたキャミソール。
彼女の背中には、どこかで見たことのあるような女性の絵が描いてあった。
タトゥー?
それは、色鮮やかに綺麗で、絵画のようだった。
正直見とれていた。
もっと眺めていたかったが、若い男が彼女に上着を着せたので、その願いは叶わなくなった。
そして、彼女はオレの方を振り返りもせず、何も言わず去っていった。
。
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