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「ん……」
それはさらに強く、優の唇を押し潰した。
燃えるような熱を宿したそれから移されたように、優の顔が赤く熱を帯びる。
冬から春へ変わったような甘い香り、そして春から夏へ変わったような熱さに優は目眩を覚えた。
「――……っはぁ」
つぐみは優から唇を離すと小さく息を吐いた。
そして潤んだ瞳で優を見つめる。
「これで……わかったか」
「……え?」
「……あたしはおまえに遠慮なんてしない。だから優……おまえも壁なんて作らないで、もっとあたしを求めてくれ」
謝罪なんて壁の一枚向こうの言葉だ。
つぐみが欲しかったのは感謝の言葉。
かと言って感謝をされたいわけではない。
壁や距離が無い、温もりがあり委ねられているという実感がある“ありがとう”をつぐみは聞きたかったのだ。
「次またむやみに謝ったら……するからな」
「え――えぇ!?」
優は驚きのあまり身じろぐ――とその時、ある事に気がついた。
……つぐみの顔が、林檎のように真っ赤になっていた。
異性にキス、それも他の人に見られる可能性が高い場所での行為だ、恥ずかしいのも当然だろう。
だが優は、この時ばかりは周りの目なんて気にならなかった。
自分を異性として認識してくれていた……これが知られただけで優は喜びで一杯だった。
それにキスされたということは間違っても嫌われてはいないはず、むしろ……優の心拍数は更に上昇し始める。
この想いは届かないと諦めていた恋だった。
もう終わったと自己完結しようとしていた恋だった。
ドクンッ――と、その恋が再び動き出した……優は胸の中で強くそれを感じた。
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