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「あ、チビがこっち来るぞ」
「だからチビって言うなっつの」
縁側では兄妹がいがみ合っていた。
こちらも孝司と同じく、離れる前に少し話でもと思った兄が警察官に連行されながらつぐみの元へまで来たのだが、二人の口から出るのは売り言葉に買い言葉なものばかりだった。
「そんな顔ばっかしてたらチビに怖がられるぜ?」
「チッ……おい、あいつの名前は優って名前だからな。いいか教えたぞ? だから今後チビなんて言うんじゃねぇ」
ニヤニヤ笑う兄にそう指差すと、つぐみはクルッと背を向けた。
前から優が歩いてくる……今度は離れていくのではない、ちゃんとこちらに向かってきている。
それだけの事、ただそれだけの事がつぐみにとってはどうしようもなく嬉しかった。
早く声を聞きたい、早く笑顔を見たい、早く触れ合いたい。
そんな逸る気持ちを抑え、優と同じくらいの速さを意識して脚を一歩踏み出す。
「……ちょっと待った、質問です先生!」
「――」
なんだこの兄は、どこかの甘党と同じで空気も読めないのか!? という気持ちも隠さずつぐみは顔だけ振り返り兄を睨んだ。
「あー悪い悪いって。そのチ……ユウ君の名前なんだけど、優しいって書いてユウ?」
「――は? そうだけど……あぁ、なるほど。そういう事か」
「変な妄想してんじゃねぇ、とっとと行っちまえ」
自分で引き止めたくせに、今度は追い払うように手をシッシと振ると兄はそっぽを向くように後ろを向いた。
つぐみの鼻で笑ったような声が後ろから聞こえた気がしたが、今振り向いて文句を言ってももうあいつは立ち止まらないだろう。
「……優、か」
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