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窓が全開に開けられ、屋内は外同様に寒くなっていた。
吐く息は白く、冬の匂いが全身を包む。
……だが、この二人の間にだけは溢れ出る熱が篭っていた。
「……」
「……」
沈黙したまま、優とつぐみは互いに歩み寄っていた足を止める。
手を伸ばせば届く距離。
つぐみは優を見下ろし、優は……下を向いていた。
ここまで迷惑をかけておいて笑顔の再会なんてできるわけがない。
それに……今彼女の顔を見たらさっきみたく泣いてしまうに決まってる。
これ以上泣いているところを見られたら幻滅されてしまう、いやもうされているだろう。
「……ごめん、なさい」
――だけど、これだけは言わなければいけない。
どんなに幻滅されても、どんなに嫌われようと……迷惑をかけてしまった、辛い思いをさせてしまった、その謝罪を。
目を閉じてすぐに浮かび上がるのは、駅で見た彼女の悲痛な表情。
人生で初めてだった……人をあんなに傷つけてしまったのは。
それも、人生で初めて好きになった女性を。
「……ふざけんなよ」
「――っ」
つぐみの呟くような、吐き捨てたような言葉に優の肩が跳ねた。
見開いた目に映るのはぼやけた足。
勝手に震える緊張で火照った手。
……もう、この恋は完全に終わった。
教室で笑いあった日々も、部活で語り合った日々も、何もかも帳消しだ。
死ぬつもりでここまできた、何もかも捨てたつもりでここまできた。
だけど生き長らえて、目の前でそれを失う事になるなんて。
……こんな事になるんなら、やっぱり――
「――――んっ? んんっ!?」
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
ただ目の前に、近すぎてぼやけている彼女の顔があって。
両方の頬には、しっとりとした暖かい手が添えられていて。
唇には、柔らかい何かが、押し付けられていて。
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