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僕の制服に、彼女の涙が染みを作っている。
……またつぐみさんを悲しませる結果になってしまった。
最後の最後までつぐみさんを困らせてばかりだな、僕は。
でも後悔はしていない、胸を張って言える、これで良かったのだと。
ついさっき夢ができた。みんなとまた楽しく過ごせると思うと嬉しかった。つぐみさんの傍にいられると心を躍らせた。
――だけど、僕のせいで多くの人達が命を落とした。
このまま幸せになっていいのか? お前にその資格があるのか?
耳の奥で、頭の中で、藤堂さんから殺さないと言われてからずっとそんな言葉が繰り返されていた。
「いやぁ楽しませてもらいましたよ、長い年月を超えて果たされる復讐劇ってやつ! 国の治安を守る警察共が金と地位ちらつかせただけで言う事聞くところとか、笑いすぎて涙出ましたねぇ! あそこに寝てる彼の方がまだ賢かった!」
「て……てめえええ!!」
「おいチビ君、聞こえるかあ!? 君、殺される覚悟でここに来たんだよなあ!? 残された少ない時間を、悔いを残さないように楽しく過ごしたよなあ!? それでいいんだよそれで! 人生楽しまなきゃ損だ! 君は幸せ者なんだよ? 人生楽しめて、こんなクソみたいな世の中からサヨナラできるんだからさあ!」
――ゴッと、鈍い音が向こうから聞こえたような気がした。
……一之宮さんの言うとおりだ、僕は幸せだった。
だって、残り少なかった時間の中で見たみんなの顔はほとんど笑顔だったから。
今日だけは、そうはいかなかったけど。
あ、おじさんがこっちに駆け寄ってきた……。
「すまない、救急車の到着が遅れてい――」
「優をお願いします」
嫌な予感がした。
いつの間にか閉じていた重い瞼を無理やり開けると、やはり予感は的中していた。
「駄目だ、つぐみさん!」
「……悪い、優。あいつだけは殺しても殺し足りないほど、存在が許せない」
初め出会った時に見た、相手の心を凍らせる事ができるような冷たい目。
久しぶりに見たそれはさらに酷く冷たくて、怖くて……辛そうで。
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