最後は笑顔で

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鉛のように重い腕を上げて、つぐみさんの制服の腕部分を掴んだ。 「行っちゃ駄目だ……僕のせいで、僕のせいでつぐみさんを――ッ!」 「優!?」 ……まだ、大丈夫みたいだ。 痛みで意識が、飛んでしまうかと思った。 けど、つぐみさんの注意を引けたようで、良かった。 冷たい感じが、無くなった瞳で、僕を見つめてくれている。 ……はは、やっぱりつぐみさんって、綺麗だなぁ。 こんなに綺麗な人とキスできたんだ……やっぱり、僕は幸せだった。 もう、どんな表情をしているのかも、あんまり見えないけれど。 「……つぐみさん」 「――止めろ……それ以上話すな……」 声もだけど、頭の下に置いてくれているつぐみさんの手も、震え始めた。 ごめんね……寒いよね、疲れたよね。 ……あぁ、駄目だ、謝るんじゃない。 謝るんじゃなくて……がとうって……言うんだ。 「……おい、何寝ようとしてんだよ……起きろ……起きろ優っ!」 つぐみ、さん……。 来てくれて……嬉し……た……。 「……あ……りが……」 …………。 ……。 「…………優?」 揺する代わりに、そっと親指で優の頬を撫でる。 少し微笑んでいるように見える表情は少しも崩れない。 ……嘘だ、嘘だと頭の中で否定する。 嫌だ、嫌だと首を振って拒絶する。 しかし、それでも、目の前の現実は変わらなくて。 「……あ……あ、ぁ……」 三谷の声が聞こえて、スーツの男を殴っていた手を止めた。 やけに静かだった、誰も声を発していなかった。 さっきまでの騒がしさが嘘のように思えた。 だから、嘘だよって一言だけでいい。 優の口からそう言ってもらえれば、俺は笑って許せる。 だが、そんな願いが叶えられる事は永遠に無いと、悲しみに満ちた三谷の叫声が俺に告げた。
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