1048人が本棚に入れています
本棚に追加
「こらぁ~!! クロス~」
大男の声が朝活気づく村に響き渡る。
その男の視線の先に、りんごを片手に走る青年。
「へっへ~」
俺は目の前に敷かれた柵を飛び越え、銀髪を靡かせ森に入った。
その姿を確認すると大男は怒鳴るのを止め、はぁ~とため息を吐く。
俺はいつものように森を駆ける。いつもの獣道を走り抜け、いつもの場所に向かう。
目の前に広がっていた木々の景色が突然開ける。
そこには円形の湖、その中心に孤立するようにある一本の大木。
湖の半径は20Mぐらい。いまの俺の位置から大木まではざっと25M。
楽勝~だろ!
俺は膝を曲げ、足に力を入れた。
「よっ…」
俺は溜めていた力を一気に解放し、地面から足が離れる。
大木との距離は縮められ、大木から伸びる突起に着地。
俺はその場に座り、木に寄りかかった。
そして右手に持つ、先刻盗ってきたばかりのりんごをかじる。
先刻のおっちゃんの顔面白かったなぁ、などと俺は一人笑っていた。
ふぅ~、一息つく俺の手には、芯だけになったりんごの残骸。
眠い……、俺は寄りかかった態勢から寝転んだ。
「………い!! 」
うとうとしていた俺は、遠くから聞こえる音に気付いた。
声?
「……にい」
確かに聞こえる。俺は上体を起こし辺りを見回すと、
……いた。
俺から見れば湖の向こう岸から懸命に叫ぶアイツ。
俺は腕を伸ばし、体をほぐすと、先程同様に湖を飛び越える。
シュタッ!!
目の前に着地したが、そんな光景にも見慣れた様子のコイツ。
こいつはカイン。まぁ、俺の親友だ。
カインはホビット族と呼ばれる人種だ。見た目は至って普通……、ある一点を除いては。
ホビット族は全員背が低い。大人であっても身長は最高でも、120cmに届かない。
事実、カインももう15歳だが、俺の腰ぐらいまでしかない。
「何かようか? カイン」
俺が訊くとカインの頬は膨らんでいく。
怒ってるみたいだが……何でだ?
俺が首を傾げているとカインはさらに膨れる。
「もうクロス兄忘れたの!? 今日は隣りの森に探検するって約束したじゃん」
俺達はよく一緒に探検に出る。といっても、隣り町、もしくは隣りの森程度だが。
「う~……?」
俺は唸る。そして数分考えた後、
「したっけ?」
ボカッ!
「痛て!!」
カインが俺の腹を殴った。
「馬鹿……」
最初のコメントを投稿しよう!