惨劇に笑う悪魔

2/6
1048人が本棚に入れています
本棚に追加
/339ページ
「こらぁ~!! クロス~」 大男の声が朝活気づく村に響き渡る。 その男の視線の先に、りんごを片手に走る青年。 「へっへ~」 俺は目の前に敷かれた柵を飛び越え、銀髪を靡かせ森に入った。 その姿を確認すると大男は怒鳴るのを止め、はぁ~とため息を吐く。 俺はいつものように森を駆ける。いつもの獣道を走り抜け、いつもの場所に向かう。 目の前に広がっていた木々の景色が突然開ける。 そこには円形の湖、その中心に孤立するようにある一本の大木。 湖の半径は20Mぐらい。いまの俺の位置から大木まではざっと25M。 楽勝~だろ! 俺は膝を曲げ、足に力を入れた。 「よっ…」 俺は溜めていた力を一気に解放し、地面から足が離れる。 大木との距離は縮められ、大木から伸びる突起に着地。 俺はその場に座り、木に寄りかかった。 そして右手に持つ、先刻盗ってきたばかりのりんごをかじる。 先刻のおっちゃんの顔面白かったなぁ、などと俺は一人笑っていた。 ふぅ~、一息つく俺の手には、芯だけになったりんごの残骸。 眠い……、俺は寄りかかった態勢から寝転んだ。 「………い!! 」 うとうとしていた俺は、遠くから聞こえる音に気付いた。 声? 「……にい」 確かに聞こえる。俺は上体を起こし辺りを見回すと、 ……いた。 俺から見れば湖の向こう岸から懸命に叫ぶアイツ。 俺は腕を伸ばし、体をほぐすと、先程同様に湖を飛び越える。 シュタッ!! 目の前に着地したが、そんな光景にも見慣れた様子のコイツ。 こいつはカイン。まぁ、俺の親友だ。 カインはホビット族と呼ばれる人種だ。見た目は至って普通……、ある一点を除いては。 ホビット族は全員背が低い。大人であっても身長は最高でも、120cmに届かない。 事実、カインももう15歳だが、俺の腰ぐらいまでしかない。 「何かようか? カイン」 俺が訊くとカインの頬は膨らんでいく。 怒ってるみたいだが……何でだ? 俺が首を傾げているとカインはさらに膨れる。 「もうクロス兄忘れたの!? 今日は隣りの森に探検するって約束したじゃん」 俺達はよく一緒に探検に出る。といっても、隣り町、もしくは隣りの森程度だが。 「う~……?」 俺は唸る。そして数分考えた後、 「したっけ?」 ボカッ! 「痛て!!」 カインが俺の腹を殴った。 「馬鹿……」
/339ページ

最初のコメントを投稿しよう!