ゆりかご!

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「お荷物は既に段ボールに入れた物がお部屋にありますよ。 一応寮長さんなのでチェックさせてもらいましたが、問題ありませんでした」 思い切りではなく僅かに語尾を伸ばす優しい口調に、ついうっとりしてしまいそうになる。 「あーあとですね神楽坂さん。 寮では二人組での生活なので相部屋になります。 それとペットは禁止ですよ」 「ワンッ」 寮長さんの最後の一言に続く初めて聞く声。 (犬?) 当然美咲はそう考える。 「おやトクナガさん、もうお掃除終了ですか?」 「ワンワンッ」 (あのー、ペット禁止なんじゃ?) そんな表情をする美咲へ向き直った寮長さんは隣にいるどこからどう見ても犬なそれを紹介した。 「こちらはトクナガさんです。 ペットとか思わなかったですよね?」 またも発動する黒いオーラ。それはもう怖い怖い。 「いえ! とっととトクナガさんよろしくっ」 「ワンッ」 「では夕食には遅れないようにお願いしますよ」 「ワンッ」 それだけ言い残して寮長さんとトクナガは長い廊下を歩いて行った。 (赤や金を基調とした王座を模した豪華な仕様の扉。 リッチな感じがして気分がいいわね) 美咲の家も十分リッチの筈だが。 (同じ部屋の娘と仲良くできるかな? 変な寮長さんとかいるけどなんとかなるよね!) 扉の前でときめく美咲の背後に人影一つ。というよりただ廊下を歩いているだけなのだが。 「どうかなさいまして? もしかして扉が壊れたとか」 澄んだ声が美咲へかかる。美咲はそれで現実へ戻った。振り向いてその声の主を確認する。 肩甲骨の少し下あたりまでの金髪が小さなツインテール、左の目元にほくろ、整いすぎた麗しい顔が疑問を持った表情で首を軽く傾げた瞬間。 (背景ピンクで光の水玉いっぱい……ッ) 美咲には見えたらしい。
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