幼馴染とデート

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 な、なんか嫌な夢見たな……。  自分でも驚くくらいの寝汗をかいていた。昨日は襲いかかってくる朱里(あかり)さんと祐希(ゆうき)をかわしながら、なんとか清水家を後にしたが── 「もしかして今後、これが毎週続くのか?」  そう思うと来週からの祐希の指導に行くのが気が重くて仕方なかった。  祐希はましな方だ。問題は姉の朱里さんにある。  俺は……朱里さんが苦手だ。  彼女は高校の頃の先輩で、俺の初恋の人。  そして俺の、初めての相手。  そんな朱里さんに対して今の俺は、好意より苦手意識の方が強かった。 「担当、変えてもらおうかな……」  家庭教師の派遣会社に相談して、祐希の担当を辞めさせてもらうことも考え始めていた。  ピピピッ ピピピッ  ちょうどその時、スマホのアラームが鳴った。  時刻を見ると六時になっている。  俺は今日、もし美穂の予定が空いていれば、彼女を誘ってどこかへ遊びに行こうとしていた。そのことを思い出し、祐希と朱里さんとのことは一旦忘れて、美穂とどこへ行こうか考え始めた。  その前にまず、どうやって誘おうかな?  ()()()事があったから、少し連絡しにくい。  昨日俺は、意図せず美穂とキスをしてしまった。  寝ていた俺にこっそりキスしようとしていた美穂。それに気づいて焦った俺が、勢いよく起き上がったせいで彼女とキスをしてしまった。  ただキスの感覚より歯をぶつけた痛みの方が大きく、その痛みを誤魔化すように美穂に怒鳴ってしまったから、彼女は逃げるように俺の家から出ていった。  俺が悪いのに……いや、寝ている俺にキスしようとしていた美穂にも、多少の非はあるかもしれないが。 「はぁ……。昨日みたいに美穂、うちにきてくんねーかな?」  どうやって誘えばよいか悩んでいた。  ピーン ポーン 「えっ」  ま、まさか……。  ありえないと思いつつ、玄関を開ける。  ガチャ 「ハル(にぃ)!!」  ギュっと美穂に抱き着かれた。 「……おはよ、美穂」 「おはよう! ハル兄」 「また今日も、朝めし作りにきてくれたの?」 「うん!」  そう言って美穂が、スーパーのビニール袋を嬉しそうに見せてきた。 「そっか、ありがとな」  俺は美穂を家に上がらせ、台所まで案内する。 「またハル兄は寝に行っていいよ。できたら起こしに行くからね」 「……いや、今日は俺も手伝うよ。それから美穂、昨日は──」 「き、昨日!? 昨日なんかあったっけ」  『昨日はごめんな』って謝ろうとしただけなのに、美穂は昨日の事を俺が怒っていると勘違いしたらしく、顔を赤くしながら必死になって誤魔化そうとしていた。 「美穂、別にお前を責めようとかじゃないよ。昨日のは俺が悪いんだし……」 「えっ? じゃ、じゃあハル兄、怒ってないの? ……その、私が寝てるハル兄に……き、キスしようとしたこと」  やっぱりしようとしてたのか……。 「怒ってないよ。その、当たったのだって、俺が急に起きたからだし……。それより二日も朝食を作りに来てくれて、ありがとな」 「本当に、いいの?」 「あぁ」 「じゃあさ、昨日は、その……。ほんの一瞬だったから──」  美穂はキスを待つように、目を閉じて顔を少し上に向ける。 「も、もう一回」 「調子にのるな!」 「あぅ!」  無防備なおでこにデコピンしてやった。 「うぅぅ……」  美穂は額を押さえ、少し涙目になって俺を見上げてくる。 「き、キスはダメ。俺とお前は幼馴染で、家庭教師の先生と生徒で、そーゆーことをして良い関係じゃないからな」 「……ハル(にぃ)の、意地悪」  いや、意地悪くないでしょ。  俺の対応が正解じゃない? 「その代わり今日は一日暇だから、美穂も予定がないならどこか連れてあげるよ。朝ご飯作りに来てくれたお礼ってことで。それで、どうかな?」 「え!? そ、それって……。ハル兄とデートってこと!?」  デートか?  まぁ、男女で出かけるなら、そうなるのかな。 「とらえようによってはそうなるな」 「やったぁぁぁぁぁ! ハル兄とデートだぁぁあ!」  ビシッ 「――っったいっ!」  急に叫びだしたから、再びおでこにデコピンしておいた、 「は、恥ずかしいから叫ぶな」 「うぅぅ……」  ──***── 「それじゃあ、私は一旦うちに帰って、着替えてからまたくるね!」  美穂と一緒に朝食をつくって食べ、しばらくすると美穂が一度家に帰ると言い出した。 「このまま少ししたら行けばいいじゃん。なんで帰るの?」 「だってだってデートだよ! 今もハル兄に会いに来てるんだから服装にも気を遣ってるけど……。デートはまた別だよ!」 「デートデート連呼するな!!」  美穂にデコピンしようとしたが、彼女はそれをバックステップで躱した。  な、なにっ!? 「ふふふっ。流石に3回もやられはしないよ」 「ふーん。あっ、美穂。まつげになんか付いてるぞ」 「え? 取ってー!」 「あぁ」  ビシッ 「あぅっ」 「ぷっ」 「うぅぅ……。ハル兄の、バカぁぁ」  ──***── 「絶対ハル兄に『かわいい』って言わせるから!」  そう宣言して、美穂は俺の家から出ていった。  『かわいいって言わせるから』かぁ……。  今でも口に出さないだけで、かわいいって思ってるんだけどな。  美穂の服装は今日も昨日も凄くかわいいかった。  俺に会いに来るからってわざわざ服装とかまで気にしてくれてるのか。しかも、また一段とかわいいくなった美穂を見れるかも知れない。  楽しみだな……って、俺も美穂に不釣り合いにならないよーに、着ていく服を考えなきゃ!  高校までとは違い、少しはファッションや髪型等も流行りを勉強するようになったし、それなりに流行りに沿った服とかも持っている。  俺はクローゼットの中から何枚か着ていく候補を取りだし、上下合わせてみたりして十分ぐらい悩んで決めた。結局、自分が一番気に入っているデザインTシャツと、黒のスラックスで行く事にした。  シンプル過ぎるかな?  でもまぁ、これが俺らしいってことで。  服を着替えて髪のセットを終え、俺は美穂が戻ってくるのをまっている。
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