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「ねぇ、今日のごはんな~に?」
とても緩い声がダイニングキッチンに響く。
「玉子焼きと…、あと、ある物でいろいろ」
僕はフライパン片手に返事した。
インスタントコーヒーの匂いが広がっていく。
白く、殺風景な部屋に、淡く、鮮やかな色が染み渡る。
「玉子焼きと、あと何つくるの?」
日の光が射し込んでいる。
「なんだろう…。ステーキとかないかな?」
玉子焼きを調理しながらふざけてみる。
途端にリラックスしている顔が輝きだす。
「あるの?」
「…朝から食べるの?」
「う~ん…。玉子焼きステーキ!」
「何それ?」
「ステーキの上に玉子焼き乗せるの」
「それ、おいしいの?」
「ハンバーグに目玉焼き乗せるじゃん」
「なるほど」
まだ目は覚めてないようだが、どこかは覚めているようだ。
いつもサラサラの腰までかかる黒髪はとてもぐちゃぐちゃで、その声をさらに緩くしている。
「まだぁ~?」
「玉子焼きはできたから食べながら待ってて」
「ステーキわ~?」
「あるわけないじゃん」
「え~?」
「去年食べたでしょ?」
「は~い」
まだ目は覚めていないようだ。
鳥達が窓の外で鳴いている。
「あ」
同時に椅子が動く音。
「どうしたの?」
「去年も食べてないよ。だから2年以上食べてないよ」
まだ目は覚めていないようだ。
「でもおととし食べたでしょ?」
「それでも随分食べてないよ」
「でもおととい食べたでしょ?」
「だから2年以上食べてないよ!」
「おとといの晩ごはんは?」
「ごはん」
「あとは?」
「ステーキ」
「食べてるじゃん」
「いや、食べてな…い……よ?」
時計が鐘を8回鳴らしている。
「目、覚めた?」
「…朝からステーキはちょっとキツイな」
それでも声は力が抜けている。
しかし目は覚めたようだ。
そして彼女は椅子に座った。
「あと何食べる?」
「あと――――
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