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途端、背中を押された感覚と同時に体の力が全て抜けた。
まるで自分のものじゃないみたいに。
まるで糸を切られた傀儡のように。
バッグは手からするりと落ちて、支える膝は力無く折れ、前のめりになった体は重力に逆らえずに地面に叩きつけられようとしていた。
困惑する暇も無かった。
俺は届くはずも無い少女に渾身の力を振り絞って手を伸ばした。
何故?
このまま倒れたら死ぬと思った。
そして、俺は死にたくなかった。
しかし、無駄な足掻きだ。
体は地面に倒れて、砕けて、溶けて、俺は死ぬ。
俺は目を閉じて、全てを諦めようとした。
直前の視界は地面を映していて、もはやその死は免れないのだ。
―――ドッ。
それはその予想とは違った感触であった。
柔らかくて、暖かい。
目を開けるとそこにはあの少女の顔があった。
その小さな少女は俺の右腕を掴み高く上げ、俺の顔は彼女の胸辺りにあった。
腕で倒れる俺を支えているのだ。
膝から下はだらしなく地面についていて、ズボンは土で汚れているだろう。
しかしそんなことはその時の俺には考えられなかった。
少女のその完璧とも言える顔、その瞳が俺の頭の中から全てを追い出していたからだ。
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