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見えていない。
こんなに近くにいるのに。
せめて、ありがとう、とその言葉だけでも伝えたかった。
そう思っていると明らかに俺が見えていないはずなのに、リナの手が窓を隔てて俺の手に重なった。
リナの目はどこか宙を、俺を通り越したどこかを見つめていた。
「もういい?いい加減約束果たしてもらわないと」
レオが言う。
俺の命のことであろう。
悔しい。
でも、リナ。
お前が消えてしまうよりはいいんだ。
俺がいなくなってもリナなら強く生きていけるさ。
「行くわよ!タクマ!」
後ろのレオがいよいよ怒りそうである。
「わかったよ。覚悟は出来てる」
「ふふん。当たり前よ。約束は守ってもらわないと」
悪魔のような赤い目がにたりと笑い、俺はレオと共に病院を離れた。
さよならも言えなくて、ごめんな、リナ。
俺は心の中でそう呟いたのだった。
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