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「だから私、アンタの一人暮らし反対したのよ」
登校中もリナの説教は続いていた。
「親父に言ってくれ」
俺はげんなりしながら返答するばかりである。
俺の一人暮らしは親の意向なのだ。
「タクマ、お前一人暮らしをしてみないか」
確か、去年の夏の夜だった。
縁側で親父と俺とリナは庭の小池に集まるホタルを見ていた。
そこで親父は不意にそう言い出したのだった。
「タクマ、生きるということは常に戦うことだ。お前みたいに心が弱いままではいけない」
語調は静かだったが、夏の空気に染み入るようなそんな声だった。
親父は武道家で、それもあってか俺は小さな頃から逆らえない存在だ。
だからこの時もそんな感じで従う形となった。
後から考えると親父も思い付きだったんではないだろうか。
いや、否めないな。
だけど。
「アンタのお父さんに私なんかが言えるわけ無いじゃない……」
俺もリナもこういうわけで、俺の一人暮らしは決定せられたのだった。
多分リナはお袋には抗議しただろうが、お袋も親父の意見尊重派だから無理だったのだろう。
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