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「私が聞きたいのは雅貴君の彼女じゃなくて、君の彼女なんだけどな・・・」
「へ?」
今度は冬麻から素っ頓狂な声が上がる。
思わず立ち上がりそうになるのを必死に堪えて、椅子に落ち着き直す。
「お、俺?」
「そう。皆知りたがってるよ?」
冬麻は心の中で絢乃が言う〈皆〉って誰だと繰り返す。
「で、いるの?」
一人、思考を何処か遠くへとやってしまっていた冬麻に本題をともう一度話を振る。
それに現実へと引き戻され、思いっきり首を横に振れば、クスクスと女の子らしく静かに笑う。
「そっかそっか。よかった」
「何が?」
その場の空気も読めずに思った事をそのまま口にすれば、静かに笑っていた彼女の顔が赤く変わる。
それで漸く彼女の気持ちを汲み取った冬麻は一人焦り、あたふたと対処に困るとでも言うような態度を露にする。
教室の皆は誰も気付かないのか、静寂とまではいかないなりにも静かに授業が続いていた。
こういう事には慣れていない冬麻には、自分から他の人を好きになる事も然り、もちろん誰かに好かれる事なんて全くもって考えられなかった予想外の出来事であった。
「考えててもらってもいいかな?」
どうしたらよいものかと、すっかり口を閉ざしてしまった冬麻に彼女が口を挟みそう言った。
それに二つ返事で返した冬麻に、再び笑って絢乃は黒板の方へと視線を戻した。
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