~一章~

8/9
前へ
/19ページ
次へ
「いや、バカにしてるわけじゃないけどね。じゃあさ、好きな子いないの?」 「え?」 「何か今思えばこういう話した事ないな。俺ら」 言われてみればいつもいつも雅貴の部活の話だとか、出された課題の話とか。 愛だの恋だのと恋愛の話をした事がない。そう気付いてしまえば当然気になってくるのは自分の気持ちではなく、目の前にいるモテる男の話ってもんだ。 冬麻は今まで困っていたのなんて忘れて、期待と好奇心に満ち満ちた目で雅貴に身を乗り出してニッと笑って雅貴に迫った。 「雅貴!」 「な・・・、何だよ・・・」 「雅貴って今までどんな女の子と付き合ってたの?」 「別に普通だよ。後輩とか同期とか・・・」 「年上とか?」 純粋なその疑問に、飲みかけていた牛乳パックのコーヒーを噴出しそうになる雅貴。 「年上はないな・・・」 「あ、そうなの?雅貴って年上嫌い?」 「そういう問題じゃないだろ。 何?お前は年上好きなの?」 言われてふと、雅貴にすら言った事のない初恋を思い出す。 脳裏を過ぎるのは甘くも酸っぱくもない、切なさだけがじんと残ったあの日の別れの日。 過去を思い出して少し切なげな表情を浮かべるその顔で、別に。なんて言ってその場を誤魔化せば、それを知りながらも雅貴は気付かないフリでその場を流す。 それから二人で、持ってきたお弁当を出して。そこからはいつも通りの会話に戻った。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加