~一章~

9/9
前へ
/19ページ
次へ
雅貴はいつも最寄駅で買ってくると言っていたおにぎりやパンとコーヒー牛乳をさっさと口に入れて昼食を済ませる。冬麻は母が作ってくれた手作り弁当をマイペースに口へと運ぶ。微妙な育ちの差を感じさせる二人の昼食はいつもこんな感じで進む。 その後はまた何気ない会話になるのだが、今日は例の話に戻った。 「で、お前結局どうすんの?」 「何が?」 食べ終えたお弁当箱を鞄に戻しながら返事だけを返せば「早乙女」と名前だけ告げられる。すっかり話が逸れて本題が何も片付いていない事を思い出した冬麻は落としそうになったお弁当箱を何とか鞄に入れると、溜息を零した。 「好きじゃないから付き合えない。は酷い?」 助言を求める視線を投げ駆れば、腕と脚を組んでいた彼に、一つ縦に首を振られる。 「やっぱり・・・」 もう一つ溜息を零して、何か断る理由はないかと試行錯誤する冬麻の姿を他人事の様に眺めながら、それでも何かいい方法を・・・と雅貴も知恵を絞る。 「もう付き合っちまえよ」 冗談で言えば批難の視線を浴びせられた。 「冗談だって。とりあえず理由なんてこじ付けるんだったら付き合えないってだけ言えば?」 合ってるのか合ってないのか分からない助言を受けて、<いつまでも答えを焦らして辺に期待を持たせるよりはずっといい>という所に賛同して、冬麻を昼休みの残り時間を計算し、まだ十分に時間がある事を確認してから屋上へと赴く事を決めた。 「俺、ちょっと屋上行ってくるね」 「おう。次、音楽室だから用意持っていってるな」 「うん。ありがとう」 そう、雅貴にお礼だけ言って冬麻は屋上へと駆け出していった。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加