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階段を駆け上がり、真っ直ぐに目指した屋上の扉を開ける。
ギィと古びた音を出しながら開いたドアの向こうから射してきた日差しの強さに、冬麻は思わず目を顰めた。
「眩し…」
声に出して呟けば、絢乃が気付いたようでこちらに向かって駆け出してくる。
「どうしたの?」
「あ、うん。さっきの返事しようと思って」
「そっか。じゃあ…冬麻君、私と付き合って下さい」
言いづらそうにしていた冬麻を気遣い、もう一度そう告白してきた彼女の顔には笑みが湛えられている。
決して嫌いなわけではなく、それでもだからと言って簡単にはいと言って打ち切れる程単純な想いを抱えてきたわけでもない。
冬麻は彼女の笑顔に苦笑いを浮かべて、ただ一言。
「ごめんなさい」
と告げた。その数瞬後。
「やっぱりね」
まるで、始めから冬麻の返事を分かっていたかのように零れ落ちた彼女の言葉に、伏せていた視線を上げる。
「どうして?」
「諦めたかったの」
何かを予想していたわけではないが、それでも意外な返答に冬麻はまた睫毛を伏せた。
「どうして…」
「ん?」
「俺を怒らないの?」
罵声の一つでも飛んでくるものだと思っていたらしい冬麻は、率直に疑問を投げ掛けるが当の本人はケロっとしていて何処か本心の掴めない感じだ。
「怒ってどうするの?別に、冬麻君が悪いわけじゃないし、ましてや傷付けられたとも思ってないよ。ここで終わりなわけじゃないでしょ?恋愛なんて次もあるんだし。まぁ、相手は冬麻君じゃないけどね」
そんな事を平然と言ってしまえる彼女の言葉が正論染みてて、返す言葉が出てこない。
これではまるで、自分が今もあの時の初恋を引きずっているのが馬鹿馬鹿しいのかとさえ思ってしまう。
冬麻は胸が締め付けられるような痛みを覚え、その場に立ち尽くす。
いつの間にか、友達の輪の中に戻ろうとしていた彼女の背中が何処か空疎で、彼女にとって自分の存在とはそれ程大きくはなかったのだろうとどこか、目に見えない所で感じ取った。
立ち尽くしたまま、気付けばもうすぐ午後の授業が始まる時間。
教室に戻らなくてもいいんだと思い出して、音楽室でたくさんいる友達と談笑しているのだろう雅貴に感謝した?。
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