~二章~

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目を開ければ時は夕暮れ。色を変えた太陽が、教室の色も変えていた。 冬麻は少し肌寒さを感じながら、身を起こせば、かさりと音を立てて肩から何かが落ちるのを感じる一。 「おはよう、寝坊助」 「え…?」 聞き覚えのある懐かしいそれは、紛れも無く待ち望んでいた彼の物。 忘れる筈もないこの声が何故ここにあるのか分からずに、素直に喜びが出てこない。思い描いた未来では、姿を見た瞬間に想いを伝えて笑顔をもらう筈だったのに…。 そんな余裕など皆無で、開口一番出てきたのは何とも在り来りな疑問だった。 「先生…何で…何でここにいるの?!」 「何でって朝からいたんだけどね」 「え?嘘だ…」 「嘘じゃない。寝てたの誰だ?まさか、一日中寝てたとかそんな馬鹿な話だったりする?」 少し大人になって色気の増した彼の纏う雰囲気と、変わらぬ笑顔の間で翻弄されて、冬麻は息が上手く出来てないのではないかと錯覚を起こしそうにさえなる。 それでも必死に状況を把握しようと試みたが、やはりそれも叶わず彼を疑問視するのみに終わった。 「本当に朝、紹介したんだけどね。病気で入院する事になった物理の浜木先生に代わっての臨時講師。ちなみに一限目は栄えある俺の初授業だったんだけど、お前は見事に爆睡ときたもんだ。残念ながら感動の再会を楽しめたのは俺だけだったね」 そう言いながら先程肩から落ちた物を拾い上げる。それは彼が着ていたスーツのジャケットで、パンパンと埃を払ってから返せばふわりといつもしていた香水の匂いがした。 「誰か待ってるのか?」 前の席に座っていた彼は、冬麻から受け取ったジャケットに袖を通して隣の絢乃の机に腰掛け直して言う。 「ううん。寝ちゃっただけ」 「は?よく寝る奴だな。だから物理のテスト42点なんだよ」 「な…、何で知ってるの?!」 「受け持つ生徒の実力を知るのも教師の役目なんだよ。ちなみに俺の受け持つ生徒の中でお前最低だから」 持ってたプリントで頭を叩かれて、そのまま彼を見遣ればそれを渡される。 「何?これ」 「何って宿題だよ宿題。もらってないだろ?ま、んなもん帰ってからしてくれ。別に誰も待ってないんだろ?なら送ってってやるから早く用意しろ」 車のキーを鞄から出してボケットに入れる。
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