~序章~

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階段を下りてすぐにあるリビングからいい匂いがして、今日は温かい内に朝食が食べられそうだと心なしか階段を下りる足が軽快なった。 リビングに行く前に洗面所で顔を洗い完全に目を覚ましてからリビングのドアを開ければ、目の前には既に父親が新聞を片手に朝食を食べていた。 その横から母親が父にコーヒーを渡している姿を見ると母はもう朝食を済ませたのだろう。 「おはよう、父さん、母さん」 「あぁ、おはよう冬麻」 そう言って新聞を読んでいた真剣な目を笑みに変え視線を息子に移すのは父。 外資系の会社に勤めるサラリーマンの父と通訳の母を持つ冬麻は世間で言われる所謂<お坊ちゃん>というやつなのかもしれないが、家庭内は至って平凡で毎日出掛ける時間の異なる家族は別々に朝食を取り仕事と学校に赴く。 そして夕飯は一緒に食べるよう心掛ける。それが冬麻の一日。 お金持ちだからと言って別段厳しい教育を強いられた覚えもなければ、かと言って甘やかされて育ったわけでもない。 根本的に自由主義な黒髪の短髪に、切れ長のその目には眼鏡を掛け、すらっと通る鼻梁と顔を魅せられるだけの長身。 サラリーマンにしておくには少し勿体ない気のするこの父は、冬麻のする事に文句を言ったりはしない。 「あら、今日は随分と早いのね」 父親のコーヒーをテーブルに置いてから振り向いた母もまた厳しい人ではなく、至極穏やかな人だ。 ストレートの長い茶髪と大きな瞳が綺麗で、きっと世間一般から見れば美人なんだろうと冬麻は思う。 どちらかと言わなくとも母親の血を色濃く受け継いでいる男の自分ですら可愛いと言われてきてるのだから、きっとそれは間違いないと勝手に自信を持つ。    
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