~一章~

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気付けば二人とも既に校門の近くまで歩いてきていて、視界いっぱいを埋め尽くしていた桜並木はいつも間にか自分達よりも後ろにあった。 一歩校門に入ってしまえば、二人で話していた時にはなかった喧騒が耳に入ってくる。 「冬麻、英語の宿題やってきた?」 「うん、一応やってあるけど何で?」 「教室行ったら見せて。英語三限だよな。 よし、余裕で間に合う」 隣りでガッツポーズをしてる雅貴は他の教科はさておき英語は苦手らしく、いつも冬麻が見せていたりする。 冬麻も冬麻で、他の教科でお世話になっているだけあって嫌な顔一つせずに答えが間違っていない事だけを祈って、いつものようにノートを貸すを決めた。 教室に入って備え付けられてある時計を見れば、まだ予鈴の二十分前。 いつも本鈴ギリギリな冬麻にしては随分な余裕だ。 走る必要もなく息切れしている訳でもないし、先生の呆れ顔が目の前にある訳でもな い。なんて快適な朝だと席に着くなり鞄を机の横に掛けて上機嫌になる。 久々にゆっくりと朝を過ごす冬麻が隣りに視線を遣れば、雅貴がカリカリとシャーペンを動かして配られていた英語のプリントに次々と答えを書いていく。 要領のいい雅貴の事だからきっと、わざと所々間違えているのだろう。 特に誰かと話したい訳でもなく机に肘を立てて外を眺めれば、まだ随分と校門周辺に は人がいるようだった。 ゆったりとした朝の空気は冬麻を眠りに誘うには十分だったようで、彼の瞼がどんどんと下へと下りてくる。 今一度、黒板の上にある時計を確認すれば朝礼が始まるまで後十五分。 きっと寝てれば誰かが起こしてくれるだろうと測り、冬麻は先程横に掛けた鞄を机の上に置いて、その上に埋もれるように顔を埋めた。 その一部始終を見ていた雅貴が、静かな笑みを堪えて此方を向いている事など微塵にも気付かずに。
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