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ミントは部屋を出た。
振り返るとシオンが扉を閉めているところだった。
扉が閉じる寸前、女の声が聞こえた。
「お父様がこっそり教えてくれましたの」
そういえば、いつになく嬉しそうにしていた女の様子を思い出した。
特に聞き耳を立てるつもりもなかったのだけど――。
「決まりましたわ。婚約が」
え――?
ミントは思わず声を上げていた。
続いて、穏やかなシオンの声が耳に入り込む。
「婚約? 婚約式の日取りじゃないのか?」
――こんやく、しき?
「ああそうでしたわ。やだ、私ったら」
女は恥ずかしそうに笑っている。
「婚約はもう決まっていましたわよね。そう。婚約式の日取りです」
扉が小さな音を立てて閉じた。
それはもう。
シオンとの関わりを完全に閉ざされたようだった。
部屋の外にいるというのに二人の談笑も混ぜた笑い声が、いつまでもミントの耳には残っていた。
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