菖蒲ーアヤメー 《昔語》

5/7
前へ
/17ページ
次へ
「若菜、今まで何をして・・・」 「お帰りになってたのね、これ・・・」 嬉しそうに微笑んでいる若菜が差し出して来たのは、 「菖蒲・・・?」 「えぇ。・・・綺麗でしょう?三条の辺りの菖蒲畑に沢山咲いていたの。噂に聞いて、取りに行っていたのよ」 「ならば、私もついて行くというのに」 一人で行かなくとも、と言うと若菜はあら、だめよ。と笑った。 「あなたのお守りに、持って来たのだもの」 「お守り?」 「そう。花言葉は分からないけれど、いつも頑張っているあなたに、どうしても綺麗だという菖蒲をあげたかったの。喜んでくれたらと思って」 「若菜、」 「心配をかけてしまったのなら、ごめんなさい」 落ち込む若菜の目には、少し涙がたまっていて。 全く、と晴明は息を吐いた。 「お前の涙には、昔から弱い」 ふわっと抱きしめる。 「これからは、勝手に一人で出歩いてくれるな、」 「はい・・・」 「それから、」 ーー今度、その菖蒲畑を見に行くか? そう耳元で囁くと、若菜はまた、嬉しそうに微笑んだ。 ーーーーーーーー
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加